2011-03-10

十五少年冒険記

大方の様々な期待を裏切って、隣町の普通高校を受験することに決めた。記憶を辿れば25年以上前のことになる。

午後から最後の三者面談があった日。3時限目の体育のときに、別クラスの担任で体育の担当教師が授業の終わり際、皆を整列させて授業のまとめ話をし始めた。左手首の袖をめくり時計をちらりと見やってから、舌打ちひとつした後、思い出したように続けた。
「今日の午後からは、お前らの将来についてお父さんやお母さんとの三者面談だな」と言って、つま先あたりに目を落とす。
「今からどんなに頑張っても、到底いや絶対に志望する学校に入ることが出来ない場合、それを親御さんにどう説明するか、いかにスピードを殺した変化球を低めに投げれるか、これが難しいことなんだ。そう思うだろ」顔を上げて皆を見回して同意を求める。
「俺は考えた末に"お母さん、正直申し上げまして志望校を受験するのは冒険ですよ" と、後は判断を委ねることにしている。我ながらうまい表現だと思うんだ」
言ってすぐに、ガムにへばりついた銀紙を噛んでしまったような顔で「あ!! この事はB組(自身の担任クラス)のやつらには内緒な、ここだけの話な」ひとつ頷いてチャイムが鳴るのを待った。

穏やかな西日が長く薄い影を作り、そこはかとなく防虫剤の匂いが漂う廊下。共に順番待ちをしている友達と壁にもたれながら、これからの深刻な現実を意識して避けるように与太話をしていた。

友達の名が呼ばれて「じゃ」ポツリと言って教室に入っていった。並べた椅子に浅く座った自分とよく似た顔と、一瞬目が合ってしまい気恥ずかしさを感じた。

しばらくすると肩を落として友達が教室から出て来た。前で立ちすくむ息子の左肩を軽く二三度叩き、正面に座る私に似た顔をした女性に会釈をすると、友達の母は履き慣れないスリッパの音と共に廊下の角に消えた。
「どうした?」と声をかけると、綺麗に整えて十時十分を指している眉を少し上げながら、「"冒険ですよ"だってよ」と無駄に時間をかけ、丹精に作り上げた前髪のひさしを見上げて微笑んだ。私もあわせて微笑んで見せたが、真冬の朝に冷たい水で顔を洗った後のような感じだった。

名前を呼びながら、体育教師と公私共に仲が良いらしい担任が顔を出した。20分後に「これから残された時間、共に頑張ろうな」と言って担任は三者面談を締めた。

高校の合格発表の日。友達と2人で同じ高校を受験した友達の家にチャリンコで向っていた。向う先の友達の姉が、受験した高校に車で乗せて行ってくれるとのことだった。

友達の部屋には、試験会場である学校に向う道すがらで、他校の生徒と胸倉のつかみ合いになり、乱闘の既の所で皆に止められた私に対する残念ムードが漂っていた。
そんな居た堪れない雰囲気に耐え切れなかったのか、友達は他行を受験した "冒険ですよ" と言われてから、しゃにむに勉強を頑張った冒険野郎マクガイバーな友達に誘いの電話をした。

合格発表が流れるラジオに皆で耳をそばだてながら、車は3人の受験校を目指して走った。知った同級生の名前を耳で拾うたびに車中の緊張は高まっていった。
私は前出の事件(こと)があって半ばあきらめながら、流れる色の抜けた景色をぼんやりと眺めていた。トンネルに入るたび、受験のために不自然に黒い髪の毛と、シャープなもみ上げを拵えた顔が、ガラス窓に映るのを見て苦笑いした。

受験校を目の前にしてラジオで結果を知ってしまう。車が停まるのを待ちきれず、後部座席から飛び出し、規則正しく数字が並ぶ中に自身の受験番号を見つけた。無事に3名ともに合格。
マクガイバーの受験校に向う途中、ラジオは悲痛な現実をただ事務的に流した。折角ここまで来たんだから、直接行って確かめようと言ってはみたものの、マクガイバーはうつむいて「帰る」と言って「やっぱ冒険だったよ」とつぶやいた。彼を家に送った後、我々もなんとなく無言で帰路に着いた。

生まれて初めて空気の重さを実感した日だった。*1

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スイッチを入れたラジオから高校入試の話題が記憶を刺激して思い出したこと。外回りの車中に漂う空気に重さを感じて、ひとつ鼻を鳴らして窓を開け放った。


*1:その後2次募集でリベンジを果たし無事卒業した。

2011-03-09

灰色の水曜日

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彼女が先週の土曜日に38度発熱する。翌日曜日には町内の子ども会で6年生を送る会があった。彼女は日曜日の朝には熱もほぼ平熱に戻っていたが、大事を取って彼を一人送り出した。10分程経って彼は無言で帰宅すると、ドラゴンスクリューから足4の字固めを一時間間違えて送り出した父に見事に決めてくれた。

月曜日の朝。普段、子供らは約1kmほどを歩いて通学しているが、その日は「はなかっぱ」が終わる頃に車に乗せて送って行った。
帰宅すると18時30分からのピアノのレッスンのため、細君と彼女は留守なのだと思った。ただいまの挨拶に対して右足へのローキックから、左の脇腹へ前蹴りと回し蹴りの中間の軌道で三日月蹴りを放ちながら、「○○○(彼女)がゲロってママと病院に行ったよ」と右足をキャッチされてアキレス腱固めにタップしながら、彼が悲鳴に近い声で言う。
「ゲロった?」
「うん。あのねぇスゲェ咳してたら、そのうちにゲポっとして、喉もヒューヒューしてて喘息の発作かもしれないって病院に行った」
そのやり取りが終わった頃合で、奥の台所で夕飯の支度をしている義母が「学童(保育)から帰ってくるときからお腹が痛いって言ってたのよ。今日はなにかの発表会?だか、催し?があってハッスルしてダンスを踊ったとかねぇ~。そのせいかも。元気なことは元気だったけどねぇ~」と彼に目顔で同意を求めながら教えてくれた。
彼女は細君がそうであるように喘息持ちだ。小さい頃に何度か喘息の発作が出たときの嫌な感じを思い出した。

夕餉の食卓で彼とイカのくちばしを取りあっていたら、じょいふる(いきものがかり)を口ずさみながら、彼女と細君が帰ってきた。今日踊った曲は自ずと理解できた。
「なんかねぇ吐いたら楽になったみたいで、この通り」たしかにその通りだった。「喘息のヒューヒューも病院に着いた頃には大丈夫だったし」と困惑顔の細君。
翌日あらためて診断とのことだが、とりあえず切羽詰った状況ではないようなので、ひとまず安心した。

細君と彼女が二人並んで夕飯を食べ始めた。そのうちに彼女が体を痒がりはじめる。小さな白い背中に降り始めたばかりの雨粒に似た赤い湿疹。「病院に行っている時は出てなかったのに、なんでぇ?」と細君。
彼女は細君がそうであるようにアレルギー体質。それは「くるみアレルギー」。
細君と義母の2人して経験上での診断を下そうと、議論しているもとで黙々とご飯をぱくついている彼女。
茶の間からテレビの音に負けじと「今日、学童(保育)でくるみ入りのケーキとお菓子出たよ」と彼の声。「○○○(彼女)も食べたっけよ」
「あんた、学童(保育)にくるみアレルギーの事言ってないの?」「入所アンケートに書いてあるし、先生も知ってるはずだけど」とやり取りをしている間に、学童保育で配られて食べ残したお菓子を彼が差し出す。
そのお菓子を細君は無言で口にして、しっかりと咀嚼した後に「くるみバリバリ入っているしぃ」
アレルギーの症状で全身蕁麻疹は勿論のこと呼吸器症状も出るらしいから、牧瀬里穂じゃなくてもヒューヒューしちゃうらしい。ため息の月曜日。

何もなかったように 雲は流れていくさ 灰色の水曜日よ。



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2011-03-07

Неделька 28-6

< 月曜日 >
  • 「エグザイル/絆」「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」のジョニー・トープロディース作品
  • 序盤の乾いた緊迫感漂う雰囲気が中盤ぐらいから湿っぽいお約束な展開になってしまうし、せっかく追い詰めた主犯格も結局自滅して色々と残念
  • 雨降りで皆が傘を差して歩く中を犯人を捜すまわるところは「冷たい雨に~」で似たようなシーンを見た気がしないでもない
  • あいかわらずラム・シューは終始食べてばかり
★★★☆☆


< 火曜日 >
  • 「母なる証明」を観る前にポン・ジュノ監督作品の復習
  • 実話に基づくフィクション作品。1980年代の軍事独裁政権化での韓国が舞台。警察による犯人のでっち上げ、誤認逮捕、拷問による自白の強要、観ていてイライラが募る
  • 重いテーマをコミカルな部分を交えながら丁寧に作り込んだ秀作。ラストは色々と切ない
★★★★★

< 水曜日 >
  • 「殺人の追憶」を観た後前に観た断片的な記憶をなんとなく寄せ集めたくなって2度目ぐらい。「エンゼルハート」で「セブン」な感じの雰囲気だがまったくの別物
  • バイオレンス描写がエグいとかグロ注意だとか目にするけど個人的には気にならなかった
  • 廊下でのスパルタンX的な横スクロールでのワンカットは圧巻
  • 色々な意味でそこはかとなく痛い情愛劇場。これもラストは色々と切ない
★★★★☆

< 木曜日 >
  • 「エグザイル/絆」の次で「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」の前で「天使の眼、野獣の街」の前にあたる劇場未公開のジョニー・トー監督作品
  • ド派手に銃撃戦は無い。もちろん誰も死ぬことは無い。ラム・シューもパイプをふかすことはあっても食べてるシーンは一切無い
  • この作品でも雨の中で傘が踊る雑踏の中のシーンは印象的。繰り広げられるスリ合戦は銃撃戦以上にスリリング
  • ヒロインがちょっと残念
★★★☆☆

< 金曜日 >
  • 気づけば絶賛韓国香港映画ウィークな勢いで観たナ・ホンジン監督の長編デビュー(!?)作品。前に気分的に乗れずに途中リタイヤした作品
  • すべてむき出しな感じで色々と生々しい。特に殴打音とかリアルすぎる
  • 雨の中を走る車の中で、助手席で子供が泣きじゃくり運転席で主人公の男が隣で電話している。お互いの声は聞こえない、そのシーンが印象的
  • まだ救いがあると思われる切ないラスト
★★★★☆

< 土曜日 >
左右の足のひとさし指と中指がしもやけであることが発覚。
血行障害を克服するためにアルコールが消費された夜。

< 日曜日 >
  • 寝おち、今週持ち越し
  • 結局、この作品も今週に持ち越し

2011-03-01

油断してしまいがちな時期

2月は会社の年度末で色々ばたばたしてる。さらにこの時期にボスも事前アナウンスも無く引退宣言。頭をもがれた蛇のようにじたばたした状態だが、世紀末が来る感じではない。*1

先週の春めいた陽気は、週があけたら一転してコンクリートの壁で擦った発泡スチロールが舞うような空模様。

昨日今日と年度末恒例行事とも言える実地棚卸。薄暗くカビ臭い倉庫の中、かじかむ指先で必死に電卓を打ちながら舌打したり。トイレで寒すぎてキャラメルコーンみたいな状態に幼い頃を思い出したり。

そんな最近、まわりくどい比喩表現と丹念に磨きぬかれた台詞回しを欲してしまい、再読したり、あらためて積読した本。



矢作俊彦と原りょうと村上春樹でレイモンド・チャンドラーについての対談を実現して頂きたいと切に願う。

さて真理をつかむために勇猛心をふるいおこして倉庫に戻ろう。


*1:by.シブがき隊「NAI-NAI 16(ナイナイシックスティーン)」。

2011-02-28

Неделька 21-27

< 月曜日 >
  • ダブル・ジョパディとは二重処罰の禁止ということで、ある事件によって有罪を受けた場合、同じ事件での二度は有罪にならないということらしい。夫による夫自身の殺害の無罪の罪を受けた妻の夫に対する復讐と残した子供への母性愛の作品
  • 色々と突っ込みどころ満載だったがハッピーエンドなラストで涙した
  • アシュレイ・ジャッドが色々と綺麗。特に左眉の上がり具合とか
★★★☆☆

< 火曜日 >
  • 頭痛に悩まされ溶け出したコールタールのように寝た日

< 水曜日 >
  • ダブル・ジョパディのアシュレイ・ジャッドの印象が良かったので「ヒート」にしようか迷った挙句に勢いでトレイに載せた何度目かに観た作品
  • 目当てのアシュレイはほんのちょい役でしか出てこないが存在感抜群
  • ラストのクリスマスにまつわる話を話し終わった西岡徳馬顔したハーヴェイ・カイテルの笑顔がなんとも素晴らしい
  • 淡々とタバコの煙のように流れる時間と日常生活の中で単純に幸せの意味を考えさせられた作品
★★★★☆

< 木曜日 >
  • アシュレイ・ジャッド目当てでこれも何度目かに流し観な感じに
  • 後半のLA市街地のど真ん中での銃撃シーンのピリピリとした緊張感が心地いい。ダークナイトが参考にした作品ということを再認識したり
★★★☆☆

< 金曜日 >
  • 「パリ、テキサス」のヴィム・ヴェンダースが製作総指揮。刑事コロンボ(ピーター・フォーク)がいい感じ
  • 8人6組3日間雨が降り続くクリーブランドを舞台にした作品。全編BGMにジャズが流れる
  • 好みかどうかで評価が二分してしまいそうな作品
★★★☆☆

< 土曜日 >

  • ウィンダムが金曜日に「観ますか?」「どう?」「えぇ微妙でした」と会話しながら貸してくれた
  • 製作がマトリックスシリーズのウォシャウスキー兄弟で「V フォー・ヴェンデッタ」のジェイムズ・マクティーグ監督作品
  • 「28日後...」でヒロインを務めたナオミ・ハリスがヒロインを務めているがヒロインは必要かどうか
  • スプラッター的な描写はやりすぎでアクションは凄いのはわかるが半分ぐらいは暗闇の中で繰り広げられるので残念。実相寺昭雄が監督したシルバー仮面の一話目を思い出した
  • 主人公のRainは華は無いが綺麗に割れた腹筋は有りでショー・コスギも濃すぎで有り
★★☆☆☆
  • 赤いワインが身体に溶け出し気分はイーニドな日



< 日曜日 >
  • コーエン兄弟の処女作で同兄弟製作「ファーゴ」のフランシス・マクドーマンドのデビュー作(初々しくまだふてぶてしくない)。前にスカパーで何気に観てておもしろかったので思い出したように再鑑賞
  • 効果的な音と丁寧に作り込んだ映像は素晴らしいに尽きる
  • 「ファーゴ」や「ノーカントリー」に繋がってる感じに思えた
★★★★☆
  • 月に一度は何故だかクリストファー・ウォーケンを観たくなる(ちなみに直近先月はちょい役悪魔なウォーケン「ゴッド・アーミー/悪の天使」)
  • マフィア三兄弟(長男クリストファー・ウォーケン、次男クリス・ペン、三男ヴィンセント・ギャロ )の他、ベニチオ・デル・トロ 、イザベラ・ロッセリーニ 、アナベラ・シオラなど密かに豪華キャスト
  • なによりクリス・ペンはキレ具合はいいが、やはりウォーケンに尽きる作品
★★★★☆