2010-10-21

老猫放浪記

無機質な電子音のチャイムが終業時間を知らせると同時に、机の上で釣り上げられた魚のように携帯電話がブルブルと踊った。

小さな埃だと思って拭ってたら、それは小さなキズですっかり目立つぐらいの大きなキズにしてしまった、携帯電話の背面部に後悔の念を感じながら、「自宅」というディスプレイの表示に寄り道を覚悟しながら電話に出ること午後5時と37分ぐらい。

「...あー パパ? ○○○だけど」と彼(長男)
「どうした?」
「シャムがいないんだけど...」

御年22歳 *1、 人間の年齢換算(老齢期=ネコの年齢×3+45)で111歳のシャムネコで名前はなんらひねることなく「シャム」。性別は「♂」ただし去勢済み。
視力・嗅覚・聴覚は、ほぼ機能しなくなっているようなので心配しているが、味覚だけは活発なようで食欲旺盛。未だ掃除機の音に敏感に反応する様を見ながら、あと数年は大丈夫だろうと自分に言い聞かせている。

彼女(長女)と家を出る際、玄関の扉は先に出た彼によって開け放たれていた。その玄関先でシャムは鼻先を乾いた空に向けて一生懸命くんかくんかしていた。リビング扉と玄関を開けておいても細君が家の中にいるので大丈夫だろうと、彼女の友達が待つ通学路まで急く手に引かれて家を出たのが 午前7時に2分前ぐらい。

「2階も押し入れの中も見たんだけど見当たらないし、ご飯も食べていないんだけど...」とフェードアウト気味に彼
「外は?探してみた?」
「ぐるりと裏まで見たけどいなかった」
「今朝外に出てたけどママは家に入れたって?」
たぶん彼と受話器で私の会話を聞いてる様子の細君(シャムが外に出てるって知らなかった ...って言って)と彼に。
「ママはシャムが外に出てることを知らなかったんだって」
(とりあえず早く帰ってきて探して頂戴 って...)
「とりあえず今帰ってきてシャムを探してほしいんだけど大丈夫かな」と絶妙な通訳をする彼。

黄色から赤に交わる寸でのところで、「セーフ!」と叫びながら、もしもの場合「ネコが行方不明で急いでました」という言い訳で、2点の減点と9千円の罰金は逃れられるはずと、3つめに無視した交差点をバックミラーで覗きながら家路に急いだ。

家の中は、既に細君と子供らが探しつくした形跡が、其処此処に散見されていたが、とりあえず納得が行くまで探し、濃くなるばかりの闇に向けて懐中電灯を片手に飛び出した。
近所の家々の間、車の下を除きながら、容赦なく頭や顔にへばりつく蜘蛛の巣に毒づき、2つ3つの溝を華麗に跨ぎ、コーギーのリードを大事そうに握るおじさんに「なにをしてる!!」と施設に入りこんで、叱られたり、最悪のことを考えて、交通量の多い幹線道路沿いを探し回ったりしたが、結局は探し出せず今時珍しい電話ボックスの明かりの元でしばらく途方にくれた。この間と逆パターンだなと思ったり。

最近は外に出ることはあっても疲れるのか、すぐに玄関扉が閉まっていても、家の中に入れろと扉の外でニャーニャーなくのだが、今朝はなかなかったからてっきり家の中にいるものだと思ったと細君。更に「ネコは死期を悟ると旅立って消える」とか言い出す。

深夜から早朝にかけて、寝床と玄関先を幾度か往復して、睡眠不足な朝を迎えた。

朝、通学に向かう彼と彼女へ近所の友達達に、シャムの行方不明を知らせてシャムを見かけなかったかを聞くように言って送り出した。7時3分ぐらい。ちょいと遠回りして会社に向かい、ひとつため息をついたら不在着信に気づいた 7時16分「自宅」から。

「あっ、もしもし、はいはい?」
「あっ!パパ! ○○○くんの(彼女の同級生)お母さんから電話があって、昨日○○○くんのおばあちゃん家の前で、言うことを聞かずに動かないネコがいたんで、保健所に電話したんだって。そのネコは顔と尻尾が黒いネコだったんだって!」と、2、3日前にチック・コリアが、12月に来るよ!!って言ったテンションで話す細君。
(言うことを聞かないネコって...)という言葉と、動揺を飲みこんで「ほぉーほぉー... じゃ頼んだよ」と、冷静沈着を装って、電話を着るや否や、速攻で104と押して、保健所の番号を聞き出し、電話するも「8時30分からです」と言われて、「あー そりゃそーだわな」細君に任せようと 7時22分ぐらい。

8時30分過ぎてからは、なんだかいてもたってもいられなくて、「シャムはどう?」と細君にメールするも、「これから引き取りに行くよ~」との返事に、益々いてもたってもいられなくなったり、「引き取った?」との返事が遅くて、やきもきしてたら40分後に「くっさいので とりあえず洗いました」と洗われてひと回り小さくなった写メを見て、やっとひと安心した。

tiltshift

とりあえず当面は外出禁止だ。


*1:細君が19歳のときに子猫で貰い受けたことから割り出した年齢。

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