質問がちりじりに飛び交って収集がつかないのを見かねるように「じゃ最後に自己アピールなどあればどうぞ」と場を仕切る総務部の後輩は彼に告げた。
コの字に並んだ7人は前もって練習を重ねたように、一斉に顔を上げて後輩が告げた先に目を向けた。
彼はぅむと喉の奥を鳴らし意識して顎をひいて見せてから、腹式呼吸を自慢するように「はいっ!!」と応えた後、さらに深呼吸するように胸を膨らまして「私は水樹奈々さんの大ファンです。いやファンという感情以上に女性として大好きです。愛しています。これからも彼女のファンとして彼女を支え自分の出来る限り応援して行きたいと思っています!」と一気に言い放ち、一瞬その余韻に浸るもすぐに眉に縦じわをつくり不自然な三重に近い二重まぶたを作り上げたうえで、真正面に座る後輩に自信に満ち溢れたその目を向けた。
私を含めた7人は、まるで遠い外国で発生したマグニチュード8以上の地震によって一気に引き潮に見舞われ、その影響によって波打ち際に置き去りにされた魚たちの様に、エラの周りに水流を作ることが出来ずにただ口をパクパクしている、一瞬にしてそんな状態に陥った。
じつは学校に提出している求人票には、声優の育成やプロモートなどの新規事業参入の計画について密かに記載してあるのかもしれないね、などと真剣に考えてしまった。そんな職場は純然たる製造業。
(注:文章と画像は関係ありません)
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