2010-01-14

実況中継

買い物でショッピングセンターなどでトイレに入った際、幼い子供が個室ドアの外で一人で立っていたり、遊んでいたりするのをよく見かける。


その子供を連れて買い物に来た男性(父親など)が、個室の中で用を済ませていることは想像できるが、なにがあるかわからないこのご時勢、例えよそ様のお子さんでも子を持つ親としては心配なったりする。

用を済ませた後、手洗い場の脇で、手をすばやく出し入れさせて感知作動させないようにエアータオルに果敢に勝負を挑んでみたり、普段は決してすることのないような表情を作って鼻毛チェックなどをしながら、個室から男性が出てくるまで、その子供をさりげなく見守っていることもしばしばあったりする。

彼(息子)が 3歳ぐらいの頃だったと思う。

それまでは、どうしたって細君にベッタリで私になど構ってくれることは無かったが、彼女(娘)がお腹に宿ってから、細君が色々と制限されることが多くなってしまったため、渋々ながら私と遊んでくれるようになった頃だ。

その日は 5分ほど車を走らせた先にある公園に行く事にした。
グラグラと揺れるはしごがついた滑り台が置いてある、その頃一番のお気に入りの公園だった。

収まるチャイルドシートが窮屈そうな彼と、時折空回りする会話をしていると突然、腹からファクシミリの送信音が流れて受信トレイに大量の紙が吐き出されるのを感じ始めた。

赤信号をもどかしく感じ、肛門括約筋が悲鳴を上げ始めた。
たまらず、目的地である公園の途中で目に入ったドラックストアの看板に向けて、ハンドルを左に切って駐車場へ乗り入れた。

チャイルドシートの中央部にあるシートベルト解除ボタンの反応の悪さに毒づいていると、「どうしたの?公園は?」と彼は不安そうな顔をして言った。
「パパ、ちょっと猛烈にトイレがしたくてね、すぐだからごめんね」と食いしばった歯の間から漏らすように言った。
「あー!、うんちね、うんち。おーけーおーけー!」。
子供特有の露骨で無邪気な発言に、静かに音を立てるように頬を赤らめてしまった。

そのドラックストアの中央出入口に隣接した屋外にトイレはあった。
彼の手を引いて、ズボンの尻に穴が開いてるのを必死に隠そうとしているような足取りで、そのトイレを目指した。

トイレの重い扉を引き開き、個室ドアノブの上部が青色をしていて安堵すると同時に、腹の状態と同じくらいの悩みを抱えた。

彼と一緒に個室に入るか、彼を個室の外で待たせるか、二者選択であった。
さすがに外で待たせることは心配だったので、彼と父親が放つ芳醇な香りを個室の中で共有することにした。

個室のドアを開けてから後悔した。大便器は和式だった。

便器を華麗にシザーズして *1、彼の右肩に手を沿え、当時大好きだった「帰ってきたウルトラマン」におけるツインテールとグドンとジャック(ウルトラマン)の三角関係について話してもらうことにした。

しかし忍耐強く感受性の低い健康な3歳児はいないに等しい。
機敏な動きに立ち入り規制中のバリケードは容易く破られ、ここで一番恐れていた事態が発生する。

背後にまわりこまわれてしまった。

抜群のタイミングでシングルレッグでテイクダウンを奪われ、ガードポジションで容赦ない鉄槌を受けてマウントポジションを奪取された瞬間だった。

背後に廻り込んだ彼は、歓喜の声を発しながら実況中継を始めた。

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なにより恥ずかしかったのは、息子に排便の実況中継をされたことより、個室から出た際、コチラに背中を向けて用を足してしている男性の肩口が上下に小刻みに揺れていた。実況中継のリスナーが一人そこにいたってことだった。

そんな彼とこのときを境に親子の絆が深まったと思っている。 と、信じて止まない。

最近あげたデジカメで暇さえあれば写真を撮っている、そんな彼。

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*1:サッカーテクニックの一つでボールを内側から外側にまたぐ技。この場合単に和式便器をまたいだことを指す。

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